グリンの森の喫茶店

2/10
前へ
/10ページ
次へ
 この世界じゃない世界のどこかに、小さな森があった。森にはあらゆる動物が住んでいた。  そして森の一番はずれには、はぐれものの一匹の生き物グリンと人間の子供のニッキ、そして虹色の鳥のレインが住んでいた。  グリンは茶色の丸い大きな毛玉みたいな姿をしていた。手足は木の枝みたいにヒョロヒョロしたこげ茶色。頭には虹色の木の芽が生えている。毛玉の下に、ギョロギョロした目があったけれど、いつもにらんでいるみたいだ。  目がグリングリンしているから、他の動物たちから「グリン」と呼ばれていたけれど、名前かどうかはわからない。もしかしたら、「犬」とか「クマ」とか「ウサギ」みたいに、動物の種類を表しているのかもしれない。  それとも、ただの「目玉がグリングリンの奴」という意味なのかもしれない。  さてグリンが住んでいる森の真ん中のあたりに、喫茶店が出来た。喫茶店といっても、屋根はない。  丸太のカウンターと、切り株のテーブル、そしてやっぱり丸太と切り株の椅子が、ぱらぱらとおいてあるだけ。  屋根がないから、雨の日はお休みだ。  けれどグリンの森に喫茶店が出来たのは初めてだ。雨が降っていない日は、毎日お客さんで一杯だった。  グリンの森にはお金はないので、お客さんはみんな、何かを持ってくる。だいたいは木の実や卵、パンやクッキーなんかの食べ物だ。  動物の子ども達は、たまにはお花をつんで持ってきたり、きれいな石を拾って持って行くこともあった。  店主はどれでも、機嫌良く受け取ってくれる。  「ねえねえ、グリン」  ある日、ニッキが言った。  「ぼく、喫茶店に行ってみたい」  グリンは少し考えた。  グリンはいつもひとりぼっちで生きてきた。ニッキとレインが来る前は。だから自分とニッキ以外の誰かが作った食べ物を食べたことはなかったし、ニッキとレイン以外の誰かと、何かを食べたこともなかった。  (どうしようかな)  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加