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「大人になって、学校のプールに忍び込むなんてベタ過ぎるよな」 塀を乗り越えながら言う真人は全然大人には見えなかった。 「そんな青春するような年じゃないんですけど」 私も同じように塀をよじ登る。 「なんか綺麗になってないか?」 改装されたのだろうか私達が通っていた頃より所々新しさが目立っていた。 「でも懐かしいなぁ」と言って水の張っていないプールの中に降りて行った。 私も懐かしさを噛み締めつつ、久しぶりにプールサイドに腰掛ける。私の定位置。 もう二人の間に沈黙はなかった。 思い出話に花が咲く。 十二年前のあの日と変わらぬ話で盛り上がる。 時間が過ぎるのがあっという間だった。 「夫が心配するといけないから」 私がそう言うと、 「そうだな、俺はもう少しここにいるよ」と真人が返す。 まるであの日と立場が逆転したみたいに。 じゃあ私も、と今の私は言えなかった。 十二年越しにあの時、先に帰った真人の気持ちがわかった。 これ以上一緒にいる資格がなかったんだ。 あの時の真人と今の私には……。 「じゃあ元気でね」 そう言うと、真人が少し寂し気な表情を浮かべた気がした。 「あぁ、気を付けて帰れよ」 ぶっきらぼうにそう言ったのはいつも通りだったけど。 立ち上がって真人に背を向けて歩き出す。 最後に振り返って、ずっと聞きたかった事を、なるべく冗談ぽく聞いてみた。 「そういえばさぁ、最後、あの時、私に何て言ったの?」 少し間が空いてから、取り繕うように真人は答えた。 「そんな十二年も前のこと覚えてるわけないだろ」 「そうだよね、じゃあさ……、あの頃、私の事好きだった?」 こんな事、今さら聞いても仕方ないのに。 何かが変わる訳でもない。 だけどどうしても聞かずには居られなかった。 真人を見ると、じっとこっちを見つめていた。 真人の口が開く。 「そんなわけないだろ」 と笑いながら、右の頬をそっと触った。
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