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忘れ物を取りに戻った教室にはまだ、真人が1人ぽつんと残っていた。
夕陽が射し込んだ教室は少し赤みがかって綺麗で、赤を纏った真人の横顔が少し寂しそうに私の目に映った。
しばらく見惚れていた私に、いつから気が付いていたのだろうか。
こっちを振り返りもせず問い掛けた真人の声で我に返る。
「またなんか忘れたのか?」
「あっうん、ちょっとね」
見惚れていた気恥ずかしさを取り繕うように私は自分の机へと急ぎ足で向かった。
途中、真人の机を通った時、一枚の紙が見えた。進路希望調査の紙。
まだ出していなかったのか? 提出期限は先週のはずなのに。相変わらずだなと思った。
「それ、まだ出してなかったの?」
「ん? あぁこれ? みゆきは高校卒業したらどうするんだ」
「どうして?」
「俺はさ、高校卒業したら、海外に行こうと思ってるんだ」
鼓動が早くなる。考えた事もなかった。
真人と離れ離れになることを。思えば幼稚園から今までずっと一緒で、これから先もずっと一緒だと勝手に思い込んでいた。
「海外ってどこ?」
「1つの国じゃないよ。色々見て回るんだ。たぶん今しかこんな事できないだろ?」
「お金……お金はどうするの?」
「とりあえずバイトして貯めたお金があるからそれで行くよ。なくなったらそこで働けばいいだろ」
真人はいつもそうだった。
計画性が無いくせに、こうと決めたら絶対に曲げない。
「本当に、テキトーだね」
「大人になったらさテキトーじゃ居られなくなるんだよ。だから今の内にな」
ふっと笑った真人の顔は私の好きな顔だった。
この日私は、真人に対する気持ちをこのまま隠そうと心に決めた。
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