盲人読書

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「バカを言うなよ、点訳の副業するくらい、古本屋は暇だってことさ。そうでなければ、目が見えない従兄弟の世話まで引き受けるかよ」  サトシはシゲルの言葉をばっさり切りながら、車椅子のサドルを握った。車椅子を押してシゲルを店内の端に設置された読書スペースに運んでいく。  広さの無い古本屋ではあるけれど、滞在時間がもっとも長い客――、主にシゲルの為にその読書スペースは設置されたようなものだ。丸いテーブルだけが置いてあり、車椅子が入れるように椅子がない。おかげでシゲルだけの定位置になっていた。  車椅子が定位置に収まり、腹に机の固い感触を得ると、シゲルは手を伸ばしてテーブルの上をさっと撫でた。こつ、こつと手に触れる本の感触がある。  サトシは客から買い取った本をシゲルのいるテーブルにおくことが多い。狭い店内では仕方が無いことなので、シゲルも楽しんで本を物色するのだ。とはいっても、シゲルの瞼は何も映すことが無いので、ただ、手触りを確かめて『読書ソムリエ』を気取るだけだった。 「今日は三冊あるんだね?」  シゲルは手に触れた本を一冊ずつ確かめた後、自分が分かるように配置して並べ直す。 「そうだ、今日の仕入れは三冊だ。どれでも選んでどうぞ?ソムリエ。中々面白そうなラインナップなんだよ」  サトシはそれだけ伝えると、コツリと靴音を鳴らして書庫に戻っていった。
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