盲人読書

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 シゲルは不思議な感覚を覚え、男に触れた自分の手のひらを引き戻した。 「本を読むことは昔からすごく好きなんだよ。目が見える頃はいつも積ん読に囲まれていたくらいにね。今は何も見えなくなってしまったけど、点字を覚えてからは点訳された本を読めるようになったんだ」 「こいつらは点字の本じゃねぇじゃん」 「こいつら?」 「……ここにある本のことだよ」  シゲルは一瞬の間を置いた後、ふっと口許を微笑ませた。 「……君って、本を愛している人なんだね」 「はぁ??」  突拍子もない言葉を吐いた自覚はある。けれど、ぶっきらぼうな男のうわずった声調子があまりにもわかりやすく照れていたので、シゲルは声を立てて笑ってしまった。  男が「なんだよ」と不満そうにくってかかってきたので、シゲルは「ごめんね」と断った後、 「僕の知る限りだと、本を愛している人はそうやって本を一人の人格のように扱うんだ。こいつ、あいつ、なんて本のことを普通は呼んだりしないよ。一冊二冊って、数えるもの。  きっと君は本を書くという作業の美しさを知っているんじゃないかな? それか、筆者の人生の一部を種にして、活字を育てる作業の尊さを知っているか。または、君自身が本から出てきた付喪神さんだったりしてね」  シゲルは男がいると思われる右側に顔を向けて首を傾げてみせたが、男は何やらバツの悪そうな言いにくそうにした雰囲気を作るだけで返事をしなかった。
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