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この時、俺は名乗っていいのか生温い風にたゆたう土手の草の如く迷い、思考を巡らせていた。向こうは自分のことを知らないのだから、名乗ったところで問題はないだろう。
「俺は野崎 翔だ」
次に彼が見せる行動も言葉も、ある程度予想がついていた。きっと彼は驚きと共にこう言うに違いない。
『友達と同じ名前だ』とーー。
「ワレ、野崎いうんか!? なんじゃ、ワシの友達……しょうちゃんいうんじゃが、そいと同じ名前やないか!」
ほら、思ったとおり。案の定、澤田 滋ことシゲちゃんは食いついてきた。
野崎 祥一郎それが祖父の名前。しかし、渾名まで同じだったとは……。
けれども、俺がしょうちゃんの孫だということは、話がややこしくなるからひと先ず秘密にしておかなくてはいけない。というか、このままこんな場所でふらふらしていていいものなのか。
「へぇ、そうなんだ」
俺はなるべく気のない返事を返す。だが次の瞬間、シゲちゃんは何かを思いついたかのように「あっ!」と声を上げてぽんっと手を叩く。
「分かったぞ! おんし、しょうちゃんの親戚じゃろ!?」
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