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しきりにこちらの様子を窺うシゲちゃんは、突然何かを思いついたかのように顔を上げて声を発した。
「よっしゃ! ほなら、今からワシが案内したるわ! 近所じゃけぇの」
いきなりこんな場所へ飛ばされてしまったことに頭が一杯で、これからどうするかなど考えにも及ばなかったが、持ちかけられた提案にはたとシゲちゃんを見やる。
「いいのか? 迷惑なんじゃ?」
だいたい、今が何時かも分からない。こんな時間にいきなり押しかけていいのだろうか。
第一、俺は相手の顔も知らない。いや、この時間軸で知っている奴なんて1人もいないのだ。
しかし、ずっとここに居続ける訳にもいかないと思考する。体感にしておよそ数秒ほどだったが、よほど心配そうに見えたのか、たった一度高らかに笑いこう言った。
「ええんよ。しょうちゃん家近所じゃし、むかぁーしからようしてもろうとるけんのぉ」
そして再度にっ、と笑うと、右手で俺の背中を軽く叩く。ばしん、と何とも小気味よい音が背中から響いた。
「ちょ、痛ぇよ」
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