1-0 手紙

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   祖父のもとに赤紙が届き、出立の前日、無事に生きて戻れたら故郷のこの町でもう一度会おうと約束していたこと。  広島市内に原子爆弾が落とされ、大変な目に遭っていると知りながら、一度も会いに行かなかったこと。  そして戦後彼の死を知り、そのことを、今の今まで後悔していたこと。  文面に記されている宛名を見た時、祖父の遺した言葉の意味がなんとなく分かった気がした。  手紙から目を逸らし、ふと空に視線を送る。入道雲以外何もない快晴を伝えていて、縁側に吊るした風鈴が暖かい風に揺られちりんと鳴った。 「原爆、か……」  あの日、広島の町に“それ”が落とされ、そこで沢山の人が死んだ。よくよく考えてみれば、それ以上のことを何も知らない。  言われて思い浮かぶのは、巨大なきのこ雲。そこに祖父の思いは付随しているのだろうか。  遥か遠くの入道雲を見つめ、俺は、その時初めてきのこ雲の下で何があったのかを知りたいと思った。  
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