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「すまん、忘れてもーた!」
いつもの屈託のないシゲちゃんを横目に「別にいいよ」と笑い返す。橙色の夕日が半円形の黒い屋根を照らし、その姿をきらきらとせせらぐ元安川の水面に映した。
自分でも可笑しいと思うが、偽らない真っ直ぐな笑顔を見ていると、なぜだか純粋な気持ちになれた。そしてきっと祖父がそうだったように、自分もこの笑顔が好きなんだ、と。
そういえば、シゲちゃんはなんで戦争に行かなかったのだろうか。
「なぁ、滋……」
呼びかけに振り向ききょとんと目を丸くするも、すぐさまにっと口角をつり上げ、あっけらかんと答える。
「シゲちゃんでええよ。ワシもしょうちゃん呼ばせてもろとるけんの」
ああ、分かっているよ。心の中ではとっくに呼ばせて貰ってるよーー『シゲちゃん』って。
彼は本当にお人好しで真っ直ぐで、嘘がない。そんなシゲちゃんの言葉に、俺はふっと口元を緩ませる。
「そっか……じゃあ遠慮なく。なぁ、シゲちゃん」
「おぅ、なんじゃ?」
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