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待ってましたとばかりに応えるシゲちゃんに対して、俺はずっと思っていた疑問をそのままぶつけた。
「シゲちゃんはなんで戦争に行かなかったんだ?」
少し直球すぎただろうか。これだとまるで、彼が戦争に行がないことを咎めているみたいだ。
訂正しよう、そう思い口を開きかける。だが、返って来たのは予想外の答えだった。
「なんで、のぉ……。みぃんな『お国の為』言うて死にに行きおる。見送る側も『万歳、万歳!』言うての。じゃがワシは思うんじゃ」
正直驚いた。皆が盲目的に旗を振り万歳を繰り返す中、シゲちゃんはそれを冷静に捉えていたことに。更にシゲちゃんは茜色の空を見上げ、続けてこう言う。
「日本は負ける。じゃけんワシゃあ、お国の為やのぉて自分の為に生きよう思っとる。それにーー」
一旦言葉を切り、うんと両を天に伸ばし、そして続けた。
「しょうちゃんと約束したけんの。『生きてまた会おう』ってな。じゃけんワシはどげんしても生きるんじゃ!」
きっぱりと断言して向けられた笑顔は、祖父とまた生きて再会出来るーーそう信じて疑わない、そんな感情が滲み出ていた。
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