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8月5日の朝、路面電車を横目に街の外れを歩く。すでに街は賑わいでいた。
それは戦争の匂いを除いて、俺のいた現代とはまた違う温かみのある賑やかさだ。少し前を歩くシゲちゃんの背中を見ながら、今月初めのことを思い出す。
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8月1日の昼休み、それは木製の椅子に腰を下ろした俺の隣で同様にシゲちゃんが腰掛け、机の上に置いた弁当箱を開けた時のこと。
「おっ、玉子焼きじゃ!」
弁当箱の隅に置かれた玉子焼きを見て、シゲちゃんは子供のようにはしゃいでいた。
「玉子焼き、好きなんか?」
ヨシヱさんが用意してくれたおにぎり片手に訊くと、一声「おう!」と元気のいい言葉が返ってきた。お決まりの、屈託のない笑顔になんだかこちらまで嬉しくなり、そっか、と口元を綻ばせおにぎりにかぶりつく。
その日の帰り道ーー、いつもどおり元安川の河川敷を1人歩いていると、随分先に人の姿が窺えた。
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