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その人物は1人で川を前にしゃがみ込み、見つめている。近づきよく見ると、それは幸子だった。
いったい何をしているのだろう。声をかけるべきか、迷いながらも歩を進め、いよいよ彼女の横顔を捉えられるくらいにまで近づく。
「あのーー」
彼女は顔を上げて振り向き、一瞬驚いたような表情で俺を見た。
「なんじゃ、しょうちゃんか……」
ほうっと脱力するかのように肩で息をつき、少し口元を緩ませる。ここで何をしているのか訊ねようと思ったが、出かけた言葉を飲み込む。
彼女をなんと呼べばいい? 幸子? サチ? いや、さすがに気が引ける。それに気がついたのか、彼女はふっと笑い切り出す。
「サっちゃんでええよ。しょうちゃんにもそう呼んでもろとったし」
サっちゃんか……。でも確かに名前をそのまま呼んだり、シゲちゃんみたいに『サチ』と呼び捨てるよりはまだ言い易い。
「じゃ、えと……サっちゃん、ここで何してるの?」
「鶴をな、置きに来たんよ」
そう言って、右手を掲げるようにこちらへ突き出した。
「鶴?」
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