1-3 8月6日

3/24
187人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
   その人物は1人で川を前にしゃがみ込み、見つめている。近づきよく見ると、それは幸子だった。  いったい何をしているのだろう。声をかけるべきか、迷いながらも歩を進め、いよいよ彼女の横顔を捉えられるくらいにまで近づく。 「あのーー」  彼女は顔を上げて振り向き、一瞬驚いたような表情で俺を見た。 「なんじゃ、しょうちゃんか……」  ほうっと脱力するかのように肩で息をつき、少し口元を緩ませる。ここで何をしているのか訊ねようと思ったが、出かけた言葉を飲み込む。  彼女をなんと呼べばいい? 幸子? サチ? いや、さすがに気が引ける。それに気がついたのか、彼女はふっと笑い切り出す。 「サっちゃんでええよ。しょうちゃんにもそう呼んでもろとったし」  サっちゃんか……。でも確かに名前をそのまま呼んだり、シゲちゃんみたいに『サチ』と呼び捨てるよりはまだ言い易い。 「じゃ、えと……サっちゃん、ここで何してるの?」 「鶴をな、置きに来たんよ」  そう言って、右手を掲げるようにこちらへ突き出した。 「鶴?」  
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!