1-3 8月6日

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   差し出された掌に視線を送ると、確かに折り鶴が乗せられている。色もない、ただの紙で出来た鶴だったが、端々がぴんと張り綺麗に折り込まれていた。  笑顔で折り鶴を見せる姿に、ふと由衣の顔がよぎる。そういえばあいつも鶴を織っていたっけ。  ーーでもなんの為に? 「なんで、そこに置くの?」  聞いていいものか考えるよりも早く、疑問は口をついて出ていた。すると彼女は少し顔を曇らせ、折り鶴を地面に置きながら答える。 「こないだな、ここで友達が偵察機に撃たれて死んだんよ。けど、そんだけやない」  一旦言葉を切ると、ふっと口の端を緩ませて訊いてきた。 「シゲちゃんは、しょうちゃんが必ず帰って来るって信じとる。ウチもじゃ。じゃけ、はよこん戦争終わって平和んなるようにって」  サっちゃんの言葉に、胸の奥がチクリと痛む。大丈夫、しょうちゃんはちゃんと生きて帰って来るよーーそう断言してやりたい気持ちで一杯になって、祖父の手紙が入った鞄の端を静かに握る。  街を温かな橙色に染める夕日は、もうすぐ帰ろうとしていた。       **
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