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なぜ今、あの時のことを思い出したのだろう。ふと天を仰ぐと、眩しい青が広がっていた。ああ……なんだか、久しぶりにゆっくり空を見た気がする。
眩い日差しを遮るように、天に向かってゆっくりと右手を伸ばした。近くに見えるそれは当然掴める訳もなく、ただ五指の間から顔を覗かせるばかり。
「はよ来んと置いてくぞー!」
「おぅ、分かっとるわ!」
数歩先を行くシゲちゃんが、こちらを振り向き呼んでいた。伸ばしていた右手を下ろすと、俺はそれに染みつきかけた偽物の訛り口調で答える。
ここでの暮らしにも、随分と馴染んだものだ。そう思いながら先を行くシゲちゃんの後を追う。
ーー翌、6日。空は澄みきった青がどこまでも続いている。着いて早々、壁に凭れわずかな涼を楽しむ。そんな俺とは反対に窓ガラスを透過して差し込む日光を右肩に受けながら、シゲちゃんは言った。
「なぁ、しょうちゃん。こん戦争、このままなぁーんも起こらんで終わったらええのぅ」
「そうやな」
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