1-3 8月6日

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   あれ? この台詞どこかで……。既視感にも似た奇妙な違和感を覚え、それが何だったのか思い出そうとした。  何か……何か、大事なことを忘れている。しかし、いくら考えても思い出せないもどかしさに、俺は隣で壁に凭れるシゲちゃんを見た。  そうか、これは1週間ちょっと前に見たあの夢。このまま何も起こらないでーーああ、確かにそう思うよ。 「そうじゃ、聞いてんか! 今日の弁当、玉子焼き入っとるんじゃ!」  突然、思いついたように声を上げると、鞄から布に包まれた弁当箱を取り出し、嬉しそうにぱあっと顔を輝かせそれを掲げる。 「楽しみじゃ。はよ昼にならんかのぅ」  更にはそう言って弁当箱を鼻先に近づけると、待ち遠しいといった様子で匂いを嗅ぐ。 「シゲちゃんは本当、玉子焼き好きやなぁ」  呆れ半分にそう返すと、弁当箱を鞄に仕舞い「あったり前じゃ」と逆光の中、屈託のないいつもの笑顔を見せた。  その時、窓の外で何かが光り、一瞬で世界が真っ白になる。  
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