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まだ下半身の自由を奪っている瓦礫の奥から、「うー」と低い声が追いかける。姿は見えないが、恐らく同じ工場の人間だろう。
早くここから抜け出さなければーーそんな思いで地面を蹴ると、靴底を通してぐにゃりと、まるで固まりかけたぬかるみを踏むような感覚が伝わってきた。ところどころ凹凸があることから、きっと誰かの顔に当たったのだ。
だが、今そのことを気にしている余裕はない。肉の感触に不快さを覚えながらも、そのまま顔を踏みつけるように蹴り、再び手探りで瓦礫の中から這い出す。
ほうほうの体で顔を上げると、そこに今までの清々しい青はなく、どす黒く濁った空が覆っていた。明々と燃え上がる炎と散乱した瓦礫の中で、俺は呆然とへたりこむ。
「アツイ、アツイ」
「タスケテーー」
ごうごうと燃え盛る炎に紛れ、呻き声が方々から聞こえてきた。
穏やかな時間に溺れ、すっかり忘れていた。今日が“その日”だったことを。
ーーそうだ!
「シゲちゃん!?」
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