1-3 8月6日

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   まだ下半身の自由を奪っている瓦礫(がれき)の奥から、「うー」と低い声が追いかける。姿は見えないが、恐らく同じ工場の人間だろう。  早くここから抜け出さなければーーそんな思いで地面を蹴ると、靴底を通してぐにゃりと、まるで固まりかけたぬかるみを踏むような感覚が伝わってきた。ところどころ凹凸があることから、きっと誰かの顔に当たったのだ。  だが、今そのことを気にしている余裕はない。肉の感触に不快さを覚えながらも、そのまま顔を踏みつけるように蹴り、再び手探りで瓦礫の中から這い出す。  ほうほうの(てい)で顔を上げると、そこに今までの清々しい青はなく、どす黒く濁った空が覆っていた。明々と燃え上がる炎と散乱した瓦礫の中で、俺は呆然とへたりこむ。 「アツイ、アツイ」 「タスケテーー」  ごうごうと燃え盛る炎に紛れ、(うめ)き声が方々から聞こえてきた。  穏やかな時間に溺れ、すっかり忘れていた。今日が“その日”だったことを。  ーーそうだ! 「シゲちゃん!?」  
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