190人が本棚に入れています
本棚に追加
一声上げると同時に、彼の左腕を肩にかけて担ぎ上げた。シゲちゃんをこんなところで死なせる訳にはいかない。
左手を盾に降りかかる火の粉を避けながら、まだ火の手が及んでいない川縁を目指す。
路面電車は炎に包まれ、立ち上る煙と爆弾によって生じた雲が空一面を覆い、太陽を遮る。その中で明々と燃える炎だけが、見る影もなくなった街を照らしていた。
今朝までの平穏でけれども活気に溢れた街並みは、もうどこにもなかった。
前方から、ゆっくりとこちらへ近づいて来る人。
その人物は、男か女かも分からないほど全身に熱傷を負っている。火傷により剥がれ落ちた皮膚は指先からだらりと垂れ下がり、最早それが服なのかどうかも見分けがつかない。
ただ、掠れた呻き声と共にぼろ布のようなそれを不規則に揺らしながら、ふらふらと消火用の四角い水瓶に向かい顔を突っ込む。人物はそのまま動かなくなった。
「ーー!」
今、何かが聞こえたような。……気のせいか。
最初のコメントを投稿しよう!