190人が本棚に入れています
本棚に追加
なぜなら方々から聞こえていた為、空耳か、あるいはそのひとつだと思っていたからだ。再び川縁に向かって歩を進めようとしたその時、
「サチ……」
シゲちゃんが、譫言のようにぽつりと溢す。虚ろなその目は、ある一点に向いていた。
「まさか……!?」
ふっと脳裏をよぎった可能性に、冷や汗が頬を伝う。彼が『サチ』と呼ぶ人間は、知る限り1人しかいない。
ゆっくりシゲちゃんの目線を辿ると、いくつかの倒壊した家屋が目に留まる。全神経を耳に送りよくよく注意してみると、さっき気のせいと思っていた声がそこから聞こえてきた。
この辺りは確か、俺やシゲちゃんの、そしてサっちゃんの家があったはずの場所だ。決してシゲちゃんを担いでいたからではない、不安感に鼓動が早くなる。
するとシゲちゃんが俺の傍を離れ、ふらつきながら家の方へ歩いてゆく。よく見ると、潰れた家屋の中、折れた梁の向こう側に誰かいる。
「サっちゃん!?」
最初のコメントを投稿しよう!