1-3 8月6日

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   なぜなら方々から聞こえていた為、空耳か、あるいはそのひとつだと思っていたからだ。再び川縁に向かって歩を進めようとしたその時、 「サチ……」  シゲちゃんが、譫言(うわごと)のようにぽつりと溢す。虚ろなその目は、ある一点に向いていた。 「まさか……!?」  ふっと脳裏をよぎった可能性に、冷や汗が頬を伝う。彼が『サチ』と呼ぶ人間は、知る限り1人しかいない。  ゆっくりシゲちゃんの目線を辿ると、いくつかの倒壊した家屋が目に留まる。全神経を耳に送りよくよく注意してみると、さっき気のせいと思っていた声がそこから聞こえてきた。  この辺りは確か、俺やシゲちゃんの、そしてサっちゃんの家があったはずの場所だ。決してシゲちゃんを担いでいたからではない、不安感に鼓動が早くなる。  するとシゲちゃんが俺の傍を離れ、ふらつきながら家の方へ歩いてゆく。よく見ると、潰れた家屋の中、折れた(はり)の向こう側に誰かいる。 「サっちゃん!?」  
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