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薄々は分かっていた。しかし、もうそうするしかないのかと途方に暮れ、地面にへたり込み家屋とその下敷きになったサっちゃんを呆然と見つめる。
「これ」
サっちゃんは思い出したかのように握っていた右手を開く。差し出されたそこには、薄汚れた1羽の鶴が乗っていた。
彼女が、平和への、何気ない日常への願いを込めて作った折り鶴だ。
右掌に乗せられたそれを受け取ると、サっちゃんはそろそろと手を引っ込める。笑顔の消えたその表情は、まるで自分を忘れてくれるなと言っているようだった。
炎が、とうとう彼女を下敷きにしている家屋に点く。俺は受け取ったそれを潰れないように握り、倒れているシゲちゃんを担ぎ上げると背を向け、再び河川敷を目指して歩き始めた。
俯きがちに唇を噛み締め、決して振り向かず。
自分の無力さに、嫌気がさした。けど、だからシゲちゃんだけはこんなところで絶対に死なせたりはしない。
その一心で黙々と歩を進めていると、爪先に、何か硬いものが当たる。
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