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薄暗い空に月が輝く夏の夕方、なんとか部室棟まで帰還することができた。校舎の時計を見ると、7時手前を指している。酷く汗をかいているのか、文字盤が滲んだ。早くシャワーを浴びたい。最後の力を振り絞るように鉄骨の階段を上がっていく。ふらつきながらドアを開けた。
「おかえり、ルイさん」
足元に集中していた目線を上げると、部室にランが立っている。手には色んな高さのハードルを抱えていた。
「ら、ランちゃん。家じゃなかったの?」
「LINEの返信来ないから、まだ練習なのかなって。だから、片付けしておこうかなって」
確かに、汚れていたはずのロッカーやベンチが綺麗になっている。ランは、もうすぐ終わるから、と声をかけハードルを片付けた。
「なら、せめて先に帰ってくれれば」
「一緒に帰りたいの。先に着替えておいで」
まだツッコミたいこといっぱいあるんだけど……。しかし、片付けをするランの手はよく見ると少し赤くなっている。一生懸命整理する背中を横目に、自分は着替え始めた。
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