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リビングから、ふわりと味噌汁の匂いが漂ってきた。
胃が声を上げて催促をするが、エレガントな見た目に味噌汁は似合わない。
ここは厳重に抗議をしなければ。
「母さん、パンとかないの?」、
キッチンにいた母が一瞬ギョッとしたが、すぐにまな板の上に目を戻した。
「また、例のスキン? 誰かと思ったわよ」
小気味よい包丁の音がリビングに響く。
どうやら僕に拒否権はないようだ。
僕は諦めて、ダイニングテーブルのいつもの席に座った。
「母さんもスキンにすればいいのに。
コレがあれば洋服を買わなくてもいいし、
ダイエットだってしなくていいしさ」
「母さんもお友達に勧められているのよね。
スキンで簡単にほっそり美人に変身できるわよって。
でもねぇ」
「でも?」
「それはもう自分じゃないってことだろ」
いつの間にかリビングにやってきた父が、僕の目の前の椅子に座りながら言った。
片手には、タブレット端末。きっとニュースでも読んでいるのだろう。
「そうよねぇ。3Dホログラムだっけ?
それを自分に周りに映し出すって、
なんだかウソついているみたいに思えちゃって」
テーブルの上に2人分の白米と味噌汁が置かれる。
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