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スキンばかりの人波は、必然的に流れが遅くなるわけだ。
そのゆったりとした波をすばやく縫って歩く人影があった。
――女の子だ。
歳は二十前後だろうか。
生え際が少し黒くなった金髪が、彼女の歩調に合わせて不規則に揺れている。
細めのボーダーTシャツにダメージ加工を施したジーパン。古い映画で見かけるような色あせた赤いスニーカーを履いた足がシャカシャカと進んでいく。
「嘘だろ。生身かよ」
僕は思わず小声で呟いた。
他の人間たちも気がついたのか、あちこちから嘲笑に近い声が聞こえた。
が、彼女は気にも留めていない様子で、スキン達の間をすり抜け、やがて見えなくなった。
「どうしたの?
ボーっとして」
いつもの駅前の雰囲気を取り戻したところで、僕はようやくミクリの声に気がついた。
「ごめんごめん。
じゃあ、行こうか」
そう言って僕のスキンはミクリの方を向いたが、生身の僕の目は、雑踏の先を見つめていた。
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