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「明日から夏休みに入るが、羽目を外さずに過ごすように。宿題も忘れるなよ」
担任のヤネセンが、いつもの馬鹿でかい声で注意をしていたが、もう遅い。
教室は既に夏休みムードで、予定を確認するもの、電子ペーパーに表示された成績を見せ合うもの、夏期講習を嘆くものたちの声で、お祭り騒ぎになっていた。
ヤネセンはもう何度か大声を出したようだが、やがて諦めて教室から出て行った。
きっと、僕以外誰も気づかなかっただろう。
「ねぇ、夏休みはいつ空いてる?」
セーラー服の赤いスカーフをヒラヒラさせながら、ミクリがやってきた。
もちろん、スキンだ。
うちの高校は制服がなく、スキンで登校できる。
正直、それが志望の1番の動機だ。
先のことなんて考えて高校を選んでいるやつなんているのだろうか。
スキンでサクッとかっこよくなって、友達と遊びまくる。
可愛い彼女ができれば、なおいい。
それが今の僕にとっては全てだ。
ちなみに今日の僕は、サイケな蛍光グリーンのパーカーでDJ風にきめている。
「まだ日付が分からない予定があるんだ。
それが決まったら連絡するよ」
ミクリは元気よく頷いて、メールしてねとだけ言って友達の方へと行った。
実は予定なんてない。
あるのは、やってみたいという衝動だけ。
だから、少しの間予定を入れたくはなかった。
とはいえ無駄足になって、ミクリへの埋め合わせはすぐにやってくる可能性も大いにある。
まずは、今日からやってみよう。
盛り上がる教室を、僕はそっと後にした。
多分、誰も気づかなかったと思う。
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