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近年より夏の異常な暑さには辟易する。酷暑を通り越し日本が蒸し風呂に包まれたかのような感覚だ。和知良太はそう思った。
歳は二十になり成人になったばなりである。今は大学生の身分ゆえ夏休みというものがあり実家へ帰省中であった。良太は都内の大学生で実家は福島県の白河である。
容姿は平凡にして特に秀でる才能はない。男友達は普通に恵まれてる方であるが、片や女友達は少なく彼女もいない。
友人はいても色恋沙汰に縁がないというのが虚しいのかどうかは本人の態度だろう。
悲しいかな良太に趣味があり、骨董品を鑑賞するか、古本屋を巡るか。今時の若者にしては枯れた趣味であり浮わついた話に縁がないのも納得ゆくものである。
だが本人は恋愛というものを体験したいなど毛ほども思わず、むしろ最近の擬人化ゲームの影響により歴史を感じるモノにますますのめり込んでいるばかりだ。
8月の初旬、地元の骨董屋へ良太は訪れた。
目的は購入を視野にいれた鑑賞である。
金勝寺屋と白文字が縫ってある藤色の暖簾をくぐれば冷たい空気を肌に感じた。冷房が効いてあるのだろう、外の熱気で汗流していた良太に心地よい冷気だった。
ガララッと木製の引き扉が擦れて開き如何にもな和装の老人が姿を現した。
「じーさん、幕末モノない?」
「いっぱいあるよ。ほれ、そこに。」
馴染み客らしく気軽に訪ねる良太に、店主の老人は部屋の片隅に指差す。
この店は古い日本家屋で囲炉裏がある板の間が店のスペースだ。骨董商なので当然、陶磁器や甲冑など様々な古いモノが置かれてあった。
指を指したさきは、ごちゃごちゃしたモノが乱雑に置かれてあった。
「キセル、刀、色々あるから見てきな。」
主人に言われ良太は靴を脱いで、上がった。
「へぇー。これ、この刀っていくら?」
若者らしく武器の類いに関心があるのか、刀を熱心に眺めては瞳を輝かせた。純粋な好奇に老人は苦笑する。
「銘付きだからな、百万あたりだ。」
とてもでないが学生のうちである以上、なかなか払える額じゃない。良太は他の骨董品に目移りした。
幕末といったら刀だ。歴史を感じるなにか、古い刀を部屋に飾って置きたかったのだが、百万の刀が一点のみだった。刀がこれでは鑑賞に丁度良い武器の類いは無いのだろう。
諦めかけた良太に、古い銃が視界に入った。暗く茶色い木の銃床、黒い錆と厚めの銃身、鉄
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