無銘の和銃

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その後日の夜。金勝寺屋を訪れてから四日目の夜の事だ。謎の声に対し一時は気味悪がってた良太であったがどうも気にしてるようで心の中が落ち着かない。 四日間の間を友人と遊んだり、家族と外食したり楽しんでは忘れる事が出来たのだが、一人の時間になると謎の声が脳内で再生され四日目前の事がぶり返される。 実家の二階にある和室は良太の部屋だ。畳の上に配置してあるベッドの上で仰向けで寝る良太。 夏の夜風に揺られて風鈴の音がする。 田舎の空気は清んで綺麗な涼しい風を運んでくれる。 骨董の世界は歴史の欠片達の世界だ。いつ、どこで、どんな時代を見てきたのか。それを今という現代に不変の姿で目の前に存在してくれてる。 それを肌に触れた時、悠久の時を経て歴史を実感させてくれるのだ。だからこそ良太は骨董品を巡るのが好きだ。 巡るのは良いが、金勝寺屋でのあの体験は初めてだ。良太は思索にふけっていた。 もう一度行くべきか、行かざるべきか。 この二つの選択に良太はずっと悶々とした日々を送っていたのだ。煮え切らなくなったのか良太は急に起き上がり、自室から出て行き階段を駆け下りる。 居間で寛いでいた良太の母親が驚いて「こんな時間にどこ行くの」と声かけた。 当の息子は母親に「散歩してくる」と返事を返し、表へ出ていった。 母親は変な子ねぇとさぞや思うただろう。 ひたすら走る、ただひたすら。 思い悩んだら思考を空にして、体の感覚も呼吸という生命の原始的な活動だけに集中して。 首筋から滴る汗が宙へ払い飛ぶ。 阿武隈川が流れる橋を通りすぎ羽黒神社へ曲がった。神社へ到着した良太は遠くを見る。 ここからそれほど遠くない場所だ。高く積み上げられた石垣に三重櫓の天守。時の豪族、白河結城家の居城であり、丹羽、阿部氏へ続く。そう、白河小峰城だ。 戊辰の戦の時は奥州の要として白河口の戦いと言われる激戦の舞台となった城だ。 今、良太が立っているこの場は金勝寺山であり新政府軍が、かのアームストロング砲と呼ばれる最新鋭の砲を放ったとされる。 走ったための乱れた息づかいに混じり呟く。 「決めたよ。あの古銃を買おう。」 決心の固まった良太の瞳に迷いは無かった。
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