イノセント

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僕はイヤホンの両端を引っ張って電極を引き抜いた。 急に接続を解除したので頭痛の発作がやってきた。頭をベルトで締められるような痛みに襲われた。だがこれは一時的な痛みだ。横になって大人しくしていればそのうち治まる。 しかしこの痛みには、これから長いこと悩まされることだろう。無知な自分と向き合う痛みには。 やっと、憧れの人だった画家と同じ目線で話せるようになったのに。ここまで関係を築き上げてきたというのに。これでまた画家との間に壁が出来てしまった。それもこれも、僕が戦争を知らないという一点で。 ただ悲しくて、悔しかった。 僕が生きている世界には、戦いや争いはない。僕が生まれるずっと前、世界はあらゆる争いを止める約束をした。争いを禁じる法律も確かある。この間授業で習った。 この現代に戦争なんて起こるはずはない。大体僕らは方法を知らない。何代か前の先祖にその方法を取り上げられてしまっているから。 戦争を知っている人に聞こうにも、直近の戦争が1世紀以上前に終わっているので、体験した人はひとり残らず鬼籍に入っている。今、画家と話している方法で、故人の皆さんに当時の様子を聞くことはできる。 だが、それで画家の言っていた、物事を知らない罪とやらは消えるだろうか。知ったことになるだろうか。戦争について全部を、すみずみまで理解したことになるのだろうか。 いや。僕の将来がかかっているというのに、そんなことすら知らないのは、画家の言う通りもはや罪だ。僕が一皮剥けることで僕は夢にまた一歩近づけるはずだ。
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