イノセント

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僕も故人の思念に度々接続している。思念への接続には特別な資格は必要ない。望めば基本的にどの思考にも接続可能だ。 僕の家族は祖父母まで全員健在で、接続する相手は身内ではない。相手は僕が小さい頃から憧れている画家の男性だ。 一目見た時から彼の作品の虜になった。彼の作品が持つ熱量と技術に圧倒された。僕もこんな絵を描きたい。そう思って以来、画家を目指して勉強中だ。これまで人生のほとんどの時間を絵に捧げてきた。来年はついに美大を受験する。人生の大勝負だ。 僕はいつものように画家の思念に接続する。どこにでも持ち歩けるイヤホン型の電極を耳に挿し込むだけという手軽さだ。昔はこうやって、音楽やラジオを持ち歩いていた時代があったらしい。 手軽なのだが、故人の思考への接続は、それなりに集中力が必要だ。第一目を閉じていないといけないので外出先では難しい。集中していないと音声も映像も乱れる。これはあくまでも思考パターンの再現だ。生きている人なら、聞き返せば同じことを言ってくれるが、故人はそれをしてくれない。やはり生きている人とのやりとりとは違う。
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