イノセント

接続はいつも朝行う。夜行うよりも目覚めた時が頭が冴えているし、最も集中力が高いと思うからだ。画家との接触はいつも、僕自身の調子が良い時にやりたい。それが画家への礼儀だ。
目を閉じて、僕は電極を挿し込む。程なくして映像が瞼に浮かび始める。接続直後の映像は、色や形しか認識できない。近視の人の裸眼に似ている。
「聞こえますか」
僕は瞼の映像に向けて声を発する。応答はないが、瞼の映像は少しずつ鮮明になっていく。
接続が完了するまでのこの時間は、毎回もどかしい。時計が見えないので何分経ったか正確には分からないが、僕の体感で5分以上かかっていると思う。接続が遅いのは、このイヤホンが古いからかもしれない。この前確かめたが、製造からすでに10年経っていた。そろそろ買い替え時か。しかし今僕は金欠だ。バイトのシフトを少し増やさなければ。