0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕がそうやって明日からのバイトについて思いを巡らしているうちに、映像はかなりもったいつけて少しずつはっきりしていく。閉じた瞼の上の方から鮮明になっていくので、近視の人が、おでこまで上げた眼鏡をかなりゆっくりと目の高さまで下げていくような感じだ。そう思うと少し笑える。と同時に苛立つ。何焦らしてんだよ、何の時間だよこれ、と僕は心の中でひとりつっこむ。
ようやく接続が完了した。瞼の映像は鮮明だ。そこには、今では見慣れた憧れの彼が映っている。いつものように口を引き結び、僕をまっすぐ見つめている。
「こんちわっす」
僕は映像の彼に軽めの挨拶をする。それを聞いた彼は両眉をぐっと顔の中心に向けて近づける。
「何だ今のは。この私に向かってその程度の挨拶ですまそうとはいい度胸だな」
いつもより声が固い。なるほど、こういう挨拶は嫌いなのか。
「大変失礼致しました。平にご容赦下さい」
僕は深々と頭を下げて謝った。瞼の彼に僕の姿は見えないのだが、気持ちの問題だ。
すると瞼の彼はふん、とわざと鼻を鳴らして
「まぁ分かれば良い。無礼を働く輩でも、私の暇をつぶしてくれるんだからな。貴重な存在だ。以後気を付けるように」
強めの口調で言っているが、話し終わりの声が少し笑っている。どうやら許してくれたようだ。もうひとつ謝っておこう。
最初のコメントを投稿しよう!