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やがて話は、僕が画家の作品中最も好きな作品の話になった。僕は画家に、自分が感じた作品への思いを画家にぶつけた。
すると画家は、
「あの絵か」
と呟いて少しの間黙った。そして視線を、僕には向けずに遠くへ逃がす。まるで、今はない自身の瞼の裏にその作品を思い浮かべているようだ。
そして僕に聞いた。
「坊主は戦争についてどれくらい知っているのかい」
戦争?
それは僕にとっては古い言い伝えのようで、授業でしかまず聞かない単語だ。
定期テストで問われるので、年代と戦争の名称はいくつか知っている。内容については知らない。
いや、年に何度か、戦争が終結した日や、節目だった日にはそれに関する授業があるので、内容については少しは知っている。が、その程度だ。僕はそう正直に答えた。
「いえ、ほとんど知りません。たまに授業で習う程度で」
画家は、そうか、と呟いた。そしてほとんど聞こえないような、小さい息をついた。
その息は、聞く人によっては、次に話し出すためのひと呼吸に聞こえただろう。
しかしそれが僕には、落胆のような、諦めのようなため息に聞こえた。
話し相手の若者はものを知らないと、揶揄するような。
それが僕にはもっとも我慢ならない態度だった。
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