恩人の夏

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「とうちゃぁん! わたしね今日ね学校でね、委員長に選ばれたんだぁ!」 ずさりと騒々しく襖の開く音がしたら、おや、上の子のふきこの声が飛び込んできた。 「ふっこちゃんダメ、父ちゃんはお仕事してるんだから、後にしなさい」 真面目な妻の声も追ってくる。 しかし確かに妻の言う通り、読経の途中でお膝に抱っこはしてやれない。 はは、かわいそうにふっこちゃんは妻に引っ張っていかれたようだ。 しょんぼりとしたふっこちゃんのふくれ面なんて、見なくたって分かる。 ほう、ふっこちゃんは委員長か。親の欲目だとしても、あの子は頭が良い。十八になったらすぐ車の免許を取らせて、びゅんびゅんと街を走らせるんだ。これからは女も男と同じように世界へ飛び出していくんだ。 そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのだから。 あの子が免許を取ったら、真っ先に助手席に座るのはもちろん私だ。私には免許が無いから、あの子にどこにでも連れて行ってもらうんだ。ああ、楽しみだなぁ……。
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