恩人の夏

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恩人の夏

ぼんぼんと上がる護摩壇(ごまだん)の火に、ひとつひとつ丁寧に護摩木を()べる。そうして忘れ得ぬ者たちの笑顔を思い出しては、ひとりひとりの名を唱えるのだ。 深呼吸をして袈裟(けさ)を払い、瞑目(めいもく)し木魚を打ちつつ唄うように読経を始める。 薄い木戸一枚隔てた向こうにはたくさんの蝉が鳴いている。 ああ、今年もまた夏がきたのだ。 蝉の声は悲しい。 この声を聞くといつも、心は十五年前に巻き戻る。
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