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兄弟の事情
観光の船がいくつも並んでいる船着き場にやってきた二人。暫く使われてはいないのか船体が汚れている。いつもは沢山の人で賑わっているようだが今はライトとディベールだけしかいない。
「お前、昨日関わるなとか言ってなかったか?」
船着き場から漁船が並ぶエリアの方へ歩きながら、ディベールに昨日と言っている事が違うぞと軽く睨みつける。
「気が変わっただけだ」
「あの装備欲しいだけだろ」
「タダで手に入るならイカ狩りなど安いものだ」
「そんなに凄い装備なのか?あれ」
「いや、普通だ。鉄よりマシなだけだ」
ただのケチかと内心毒づくライト。
二人が歩いて行くと漁船が沢山並んでいる場所に到着する。
そこでは漁師達が集まって何かもめているようだった。
「待て!早まるな!お前が行ってもどうにもなんねーよ!」
「離せ!俺がやってやるんだ!」
ガタイが良くこんがり日に焼けている男が細くて小さな少年を押さえつけている。少年は手に棍棒を持ってバタバタと暴れている。
「父さんの仇をとるんだ!離せ!」
「いって!この…っ」
押さえつけられている男の腕に噛み付くとその場から抜け出す。
前をみて走ってなかったせいかディベールとぶつかりその場に尻もちをついてしまう。
「君、大丈夫?」
ライトが屈んで少年に手を伸ばし身体を起こしてあげると、後ろから追いかけてきた男が近寄ってくる
少年はとっさにライトの後ろに隠れて男を見て睨む。
「おい、ルイ。いい加減にしろ」
「うるさい!誰も倒さないなら俺がやる!」
ライトとディベールを間に置いたまま二人で言い合いを続け、隣でイライラしてきたディベールの空気をライトが察して口を開く
「あの…どうかしたんですか?」
ライトの言葉に男は顔をあげてライトとディベールの顔を交互に見ると軽く頭を下げ謝る。
「すみません。ご迷惑をおかけして」
「いえ…」
ルイ少年はライトから離れる気がないのか、服をギュッと掴んで腰元に顔を埋めている。
「俺はコール、そっちは弟のルイ。俺はここで漁師をしているんだ」
漁師と聞いてディベールはライトの腰にくっついているルイに目を向けるが、ディベールと目が合うとルイは肩をビクッと跳ねさせ顔を俯かせてしまう。
「アンタ達は観光で来た人?」
「いえ、旅人です」
「そうか…イカの事はどっかで聞いた?」
「はい、さっき」
ライトが頷くとコールは俯いて頭をポリポリかくとため息混じりにまた話し出す。
「実は、俺達の親父がそのイカに食われたみたいなんだ」
「えっ!」
「海に出たきり帰ってこなくて…戻ってきたのは空の船だけで」
「なるほど、それで敵討ちと言うわけか」
今だにライトの腰にくっついているルイに向けて腕組みをしたディベールが呟く。
その言葉に腹が立ったのかルイがディベールを睨みつけて怒る。
「そうだよ!誰もやらないなら俺がやってやるんだ!」
「その棒きれで巨大イカを倒すのか?」
鼻で笑いながらディベールはルイが持っていた棍棒を指差す。馬鹿にされ顔を真っ赤にして怒るルイにディベールは持っていた棍棒を取り上げてしまう。
「あ、返せよ!」
「お前みたいな子供に何が出来る。子供は子供らしく呑気に遊んでいろ」
棍棒を海にポイッと捨てるとスタスタと歩き出してしまうディベール
「あー!!俺の棍棒!!」
その様子を驚いた様子で見ていたコールとライトはルイの叫びにハッと我に返る
ルイは海の上に浮かぶ棍棒を悔しそうに見つめ、スタスタと歩いて行ってしまったディベールを睨みつける
「勇者!何をしている?行くぞー?」
だいぶ先に行ってしまったディベールにライトは目の前のコールに頭を下げて謝る
「すみません…」
「いや…」
「ごめんな!後で謝らせるから!」
ルイにも頭を下げるとディベールの元へと軽く走って追いつき、また歩き出したディベールの隣を歩く
その様子を兄弟二人が不思議そうに眺めるのだった。
「勇者?」
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