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勇者になりました。
ここは王都から遠く離れた田舎町ダラム。都会と違って広がっているのは田園風景と放牧されている牛や羊の姿。そんなのんびりと平和な田舎町がいつもと違い今日は騒めいている。
一軒の家の前に王都からの迎えの馬車が来ており、その田舎町にはない珍しい光景に近所の住民が集まってきていた。
「じゃあ、行ってくるよ母さん」
家から出てきた青年が振り返り母に別れを告げる。その顔はどこか不服そう。
「ライト行ってらっしゃい!頑張ってくるのよ!」
一方、母はと言うととても嬉しそうでどこか誇らしげな感じも見受けられる。そんな母の姿を目に焼き付け、ライトは横付けされている馬車へと乗り込み椅子に座ると馬車は軽快に王都へと向かって走り出す。いつまでも手を振り馬車を見送る母を窓から顔を出して名残惜しそうに見つめていたが、それも見えなくなってしまうと椅子に深く座り直し溜息を吐く。
「何で俺が勇者なんだ…」
数日前に届いた手紙をポケットから取り出して見つめる。そこには城への招待状とめでたく勇者に選ばれた旨が記載された手紙が入っており、それ以上詳しい内容は書いていない。
自分がどうして選ばれたのかはわからず眉をひそめ口からはため息が自然と出てしまう。今は、窓の外を流れる田園風景を不安な面持ちで眺めるしかなかった。
王都には馬車だと半日くらいで着く。ライトが着いたのは夕方で日も傾き始めていた。馬車から降りて目の前の大きな城を見上げる。これから自分が中へ入って王様に謁見するのかと思うと緊張で手が冷たくなってくる。
「ようこそお越しくださいました勇者様こちらへどうぞ」
ぼーっと城を見上げていると声をかけられハッとする。銀縁眼鏡にオールバックの髪シュッとした細身のスーツに身を包んだ男が軽くお辞儀をしてからライトを城の中へと案内する。城の中へと移動する途中ふいに視線を感じ街中の方へと目を向けるが行き交う人々しかおらず、こちらを見ている人はいない。
「気のせいか…」
首を傾げてから案内してくれる男に着いて城の中へと入って行く。
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