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ママが帰ってくる
「ココロさん、今日は玄関の外の、階段を一階降りたところにあるダストシュートに、ペットボトルを捨てに行かなくてはなりません」
「うん」
ごみ捨ては、数歩とはいえお家の外に出る特別なミッションです。
ココロは緊張します。
ひとりでお家の外に出ない、はパパからもママからも何度も言われた最優先事項です。
でも、マンションの廊下にあるダストシュートまでごみの袋を持っていくのは、
ママと一緒になんどかやったことがありました。
ココロのマンションでは、お昼までにダストシュートに入れればいいことになっています。
ココロは、お昼ちょっと前くらいに、あまり人の通りかからない廊下に出てごみを扉の向こうに落とします。
今日も、まだうまく結べないので袋の口をテープでべったりと留めた袋をよいしょと持って、トトと一緒に玄関を出、ダストシュートに向かいました。
ゴミを無事にダストシュートに投げ込み、お家に引き返そうとしたときでした。
トトが言いました。
「ココロ、ママが帰ってくるよ」
「え…」
ココロはトトを振り向きます。
トトの、のどにつけているネクタイのスピーカーから、唐突にルナの音声でメッセージが流れてきました。
「ココロさん、11時30分、新家まりあさんからホームネットワークにアクセスがありました。
空調、給湯器の設定が更新されました。
位置お知らせシステムによると、新家まりあさんは、30秒後に家に到着します」
ママが戻ってくる!
ココロがお家のドアのほうを振り返ると、まさにドアが開いてママらしき人影が中に入るところでした。
ココロはあわてて踊り場から階段を降り、ドアに向かいました。
オートロックで閉まってしまいますが、瞳と声、顔認証で入れてもらえます。
「ルナ、入れて!」
ドアが開くと、ママが「ココロ、ココロ?」と呼ぶ声が聞こえました。
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