ある醜い魚

2/3
前へ
/3ページ
次へ
暗く深い海の底。 神秘が眠るその場所で 1匹の醜い魚は産まれました。 その姿は、それはそれはおぞましいもので 縄張りには、寄り付く魚さえ現れません。 鮮血のような真紅の体。 胴には、大小さまざまな毒々しい斑点が彩られ 瞳は濁って禍々しい光を灯していました。 岩陰にひっそりと暮らす魚とその祖父。 やがて彼は、まわりの違和感に気づき始め、 ある日祖父に問いかけます。 「ねぇ、おじいちゃん。」 「なんだい?」 「どうしてみんな、僕を怖がるのだろう。」 孫魚は、濁った瞳をぎょろりと光らせ 不思議そうに言いました。 「なぁに、怖がってなどいないさ。」 「僕が話しかけようとすると、皆逃げていくよ。」 「異彩を放つ者は、いつの世も馴染まれにくいものさ。」 「おじいちゃんもそうだったの?」 「そうだとも。」 醜い魚の祖父は、懐かしむように言います。 「ものめずらしいのさ。わしらの種がな。」 「・・・めずらしい?」 「お前もじきにわかるさ。わしらは気高い魚だ。」 胸を張って良い、と祖父は誇らしげに言いました。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加