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「いい腕だ。それに、その目。実にいい。実に」
殺し合いの真っ最中だというのに、マシューはムレーニを診て感想を述べている。メスが眼前まで近付けられたムレーニは逆に動けなくなる。引鉄を引くというワンアクションが必要な銃とは違い、メスは刃物だ。ほんの少しでも動けば鋭く研がれた刃先が、目を傷つけるだろう。
「ここで死なせるのは実に惜しい。ぜひとも、保存して生かしておきたい」
「うわさに通り悪趣味な方ね」
ムレーニはマシューに視線をうつし言う。メスが眼前にあるというのに、凛とした態度を一切、崩そうとしない。それは、ますますマシューの関心を寄せることになる。
ムレーニは一歩間違えれば、メスが目に突き刺さるかもしれないというのに表情を崩すことなく立ち向かう。傘は押し上げられてはいたが、足は自由のままだ。踏み込み、マシューの足を払う。体勢が崩されそうになるも、それは突き付けられたメスが自分の方に向かってくるに他ならない。それでも、ムレーニは冷静に左手で突き付けられたメスが握られた手を掴むと、柔道でいう巴投げの応用でマシュー投げ飛ばす。
銃による戦い方だけでなく、近接戦闘も長けているらしい。
「意外かしら?」
マシューは投げ飛ばすことで、距離を置いたムレーニが言う。
意外。確かにそうかもしれない。ムレーニの実力を軽んじていたわけではないが、実際に戦ってみると実力は想像以上だ。
ネロも中々の実力者と目をつけていたが、まさか、他にも手練れがいたとは。
マシューは体勢を立て直し次の攻勢に写ろうとする前に、ムレーニは傘を手に森を再現したエリアに入っていってしまった。
殺し屋達のために用意されたコロシアムであるが、観客席を除く敷地の広さはちょっとした街ほどある。そこに、様々な環境が再現されているのだから。
「逃げられたか」
マシューは森に姿を隠したムレーニを追って進もうとしたが、
「待てよ。マシュー」
行く手を遮られる。
森に踏みいる手前、呼び止められる。ムレーニを殺そうと思っていたマシューが振り向かえると腕組みをする痩せた背が高い男が立っていた。
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