2.ネロとキャロライナ

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「ばかな・・・」  痩せ形の男。いや、黒い布の中に隠れていた小柄な男は額から血を流し倒れた。 「どうして」  男は信じられなかった。これまで、幾度となく同じ方法で人を殺してきたからだ。背が高く痩せ形ということで、大抵の相手は油断する。まさか、布の中に本人が隠れておりその中で機械仕掛けの身体を操作しているなど思いもしない。相手の隙をついて、布の中から、毒針付きの吹き矢でも放てば相手は死ぬ確実に。  しかし、男が本当に信じられなかったのは、自分の仕掛けが見破られ潰されたことではない。彼は間違いなく毒針をマシューに向けて放った。速効の毒なので死ぬはずなのに、どういう訳か生きていた。 「だから、半人前なんだ。お前は、私の身体には無数の毒物に対する毒が生成されている。長年の研究の成果だ」 「長年の研究・・・?ばか・・・。いったい、いつ、どこで」 「さあ。どこだろうね。殺し屋はベラベラと“秘密”を喋らないものさ」  マシューはそう言って、メスをダ鞄の中にしまった。鞄の側面には反射の具合でよく見えなかったが、僅かに凹凸がある。あまり目立たぬものなので、誰も気にする者はいなかった。例え、それを目にしたとしても、殆どの者はこの生き残りを賭けた戦いの中では、意識に留めておくことはできない。  それが、例え“歯車”の形をしていたとしてもだ。  マドレッドTVの社長でもあるロンバンズは簡易テーブルに置かれたショットグラスに酒を注ぐ。小さいグラスなのですぐに、酒で満たされる。おちょこよりちょっと多いぐらいの酒をロンバンズは一口で煽る。 「今回は色々と起こりそうな大会になりそうだ」  ロンバンズはタブレットに表示されるコロシアムの様子。画面の右上を触れば、画面が切り替わり、出場者の名簿が表示される。とはいっても、どこまでが本当なのか分からない。申告は自己で行うが為、経歴を偽る者も多い。特に、このような命賭けの戦いでは、少しでも相手を脅かそうと、自分の実力を改竄してもおかしくない。それが、高く見せるか、低く見せるかの違いであるが。
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