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----正義を貫くというのは難しい。
そもそも、“正義”とはなんなのか。
私は“この世界”で『正義の味方』になりたかった。
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----この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ。
これは、イタリアの詩人、ダンテが遺した言葉にそうような一説がある。これから、先、地獄の門の先には一切の希望はない。あるのは凄惨たる地獄。故に人に希望をもたせない為に、ダンテは地獄の門に言葉を書き記した。
確かに、この門をくぐれば、希望はない。門の外からでも漂う生臭い匂いが元看守であるハバ・ネロに自覚させた。刑務官を兼任していた時も、処刑されたあとの罪人を墓に埋葬する時、何度となくその匂いは嗅いできた。だが、あれは四方を封鎖された室内だからこそ、匂いは残り続けた。だが、ここはその匂いとは比較にならない。いったい、どれほどの人の生き血がそこに吸われたのか。
「さっさと門を開けろ!」
門の内と外から老いも若き、男も女も関係なく罵声が浴びせられていた。それに飽き足らず門を激しく叩き付けるものまでいる。この先に一切の希望がないと言われているのにも関わらず、彼らは開くことを望んでいた。ネロは顰めっ面でそれらを聞き流している。
荒れくれ者は門の内側だけにいると思われたが、どうやら外も変わらないらしい。
「ずいぶんと、落ち着いているな。こんな狭いところに押し込められておきながら」
ネロに声をかける者がいた。ネロが制帽で目線を隠しながら見上げると、大柄の男がニタニタと笑って見下ろしていた。
「これから、なにが始まるのか分かっているのか?」
大柄の男は門の内側にいる人々の中では特に高く天井に頭が当たりそうなぐらい。大柄の男はよほど、自信があるらしく自分とは対照的に小柄なネロを見下していた。その大きな手でネロの頭を撫でながら、
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