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ネロは息苦しさを紛らすかのように、ベルトのソケットからタバスコの小瓶を一本、取り出すとまるまる、それを口にする。激辛ソースで知られ、決して飲み物のように呑む代物ではないが、ネロは平気だった。むしろ、気分を高めるのに役立つ。
「まずいな」
閉じられた門を見ていたネロはそんな呟きを漏らす。
いったい、何がまずいのか。ネロはナイフの柄に結わえ付けたロープを天井にナイフごと突き刺した。
「ん?」
何人かが、ネロの奇妙な行動に気付いた。ロープを天井にシッカリ固定したのを確認するとネロはロープを伝わり天井まで登る。
いったい、何をしているのか。
「なるほど」
ネロの行動に何かを察したのか。マシューは頷くと、手持ちの鞄から注射器を一つ取り出す。マシューと向かい合っていたアイザックが、
「何をする気だ?」
「なに、ちょっと」
マシューは注射器の他に茶色の密閉容器を取り出す。手の平に収まるぐらいの小瓶で彼は慣れた手つきで先端の尖った部分を切り落とすと注射器の針を差し込み、中の溶液を吸い出す。軽く注射器を叩き、内部の余分な空気を全て外に出し切ると彼は針の先端を躊躇いもなくアイザックの太股に刺した。
「てめぇ!」
アイザックが太い腕を振り回してマシューを振り払うが時、すでに遅し。溶液はすでにアイザックに注入された。
「なんの薬を打ちやがった!」
「死ぬような毒物ではない。私は毒の類は持ち合わせていない。私がいつも、持ち歩いている薬は麻酔薬の一種だ」
「麻酔薬・・・だ・・と?」
今、アイザックに打ち込んだ薬は間違いなく麻酔薬のようだ。ガクガクとアイザックが震え始めた。何かに恐怖して身動きがとれなくなったのではない。麻酔薬が効いてきて、喋ることができなくなり始めた。
「安心しろ。麻酔薬といっても、肺呼吸を止めたりはしない。私は、相手を殺す趣味はない」
「あ・・あ・・・が」
アイザックは痺れる唇を僅かに動かしながら何かを言っている。自慢の腕力でマシューを殺そうと考えるも腕が上がらない。薬を使われてからものの数十秒も経っていないというのに効果は劇的に現れた。マシューは棒立ちのまま動けないアイザックの腹部を手術道具のメスで軽く突いてみる。強くなく軽く触れる程度に。それでも、鋭く研がれたメスの刃先はプツとアイザックの腹に小さな傷跡を残した。
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