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「私は人殺しの趣味はない。趣味があるとすれば、生き返らせることだ。どんな奴でも。生者でも死者でも関係なく。全てを生き返らせる」
マシューはよほど楽しいらしく笑みを浮かべアイザックに言う。
とても、普通の会話とは思えないサディストを感じさせる内容だ。聞いているだけで、吐き気がしそうになる。マシューはもう、この場でアイザックの解剖でも行うつもりなのか。いや、そうではない。アイザックをわざわざ、麻酔をかけ動けなくしたのには別の理由があった。
「だから、安心して今は死んでおけ」
(今は・・・死んでおけ・・だと?)
麻酔の効果で身体は硬直しているが思考までは止めることはできない。アイザックは残された思考でマシューが言わんとしていること考える。
「おい。お前、何をやっているんだ!」
奇妙な行動を取りだしたのはネロやマシューだけではなかった。濃硫酸が入ったタンクを背負ったガスマスクの男も床を硫酸の雨で大急ぎで溶かし始めた。元々、そんなに頑丈な代物ではないので数十秒で人一人が入れるぐらいの穴が空く。マスクのせいで顔を伺うことはできないが、荒い呼吸音が聞こえ、慌てているように見えた。
「シューコー。シュコー」
長年、濃硫酸の道具を扱っている為か随分と手慣れた様子でポケットから中和剤を取り出すと濃硫酸で穴が空いた床に振りかけ、濃硫酸で焼け焦げていた床を安全なものにし、スッとそこに身を沈めた。
いったい、何をやっているのか。この場にいたほとんどの者が理解できずにいた。
(いったい、何を・・・)
攻撃をする訳でもなく天井に張り付いたり、床下に潜り込んだり、大柄なアイザックに麻酔をかけたりと意図が読めない。
門の内側でどよめきが一層、大きくなろうとした。それを、合図にしたかのように門が開かれた。
もっとも普通の開きからではない。外側から不自然に圧力がかかり、門の扉が曲がり、その原型を失う。
一度、ベキという鈍い音が聞こえた。その音を中にいた者に聞こえた次の瞬間、それがなんの音であるのか、理解するよりも早く熱波と衝撃が貫いた。
扉は開かれた。数十キロの爆薬を積んだ砲弾によって----。
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