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「医者が死んだらシャレにならないでしょう」
マシューはアイザックの死体を前に焼け爛れた周囲の死体を見て言う。
「なかなか、良い武器を使うものだ。さすがは、マドレッドTVということはある」
開幕の合図と共に受けた洗礼。戦車の砲撃は控え室を兼ねたコンテナを貫通し、向こう側の観客席にいた無関係な観客をも巻き込み、全てを焦げた肉片に変えてしまった。数十名はいたはずなのに生き残れたのは、ネロを含めて僅か十数名のみ。常識外の熱烈な歓迎であったが、誰一人として文句を言う者はいなかった。この程度で、死んでしまうようでは、ここではとても生き残れない。
むしろ、全員の視線は一人に注がれた。たった、一人、他の誰よりも回避に動いたネロである。名の知れた殺し屋達の集まりで、彼が誰よりも先に気付いた。命の危険に。
(危なかった)
ネロはホッと胸を撫で下ろす。以前にも似たような目にあったことがあった。箱の国でレースに無条件で参加させられた時もスタートと同時に襲撃された。その時と同じように嫌な予感がして天井に逃げたが正解だったらしい。
「ハバ・ネロか・・・」
タバコをくわえ狙撃銃を持った鋭い眼光の男は、ボロボロの手帳を開き名前に目を通す。あれだけの感性を持った青年。一見すると、貧弱そうな身体をしているが、相当な実力者である。警戒することに越したことはない。手帳を調べて彼の名前は載ってなかった。あれだけの実力者、殺し屋であるなし問わず名前が載っていても不思議ではないというのに。彼は偽名を使っているのだろうか。殺し屋達の祭典でわざわざ、本名を名乗り出場を希望する者はいない。
「・・・・」
スナイパー、ディーク・西郷は警戒するように狙撃銃を構えると、真っ先に駆けだした。
すでに、戦いは始まっている。ふるいにかけられ命を落とした連中のことなど哀れんでいるヒマはなかった。そもそもする義理すらない。今、彼に必要なのは狙撃ポイントを確保することが最優先事項だった。
「始まってしまったか」
ネロは嫌な汗を流す。こんな殺し屋が血で血を洗い流すような大会に出たくなどなかった。だが、今回ばかりはどうしても出ないわけにはいかない。
あることを確認するために。
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