見知らぬ恋

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愛だの恋だので腹は膨れませんが、この暑い夏には、もしかしたら似合いのものなのかもしれません。とある男女が巡り会い、時には離れ、また寄り添うこともある。美しいものとも言えるでしょう。夏の盛り、とある男女の小話。 チリン 涼やかな音色。 最近あまり聴かないその風鈴の音は、僕が住んでるアパートの隣部屋から聞こえてくるようになってきた。 ああ風流だなあとひとりごちる。 お隣さんがどんは知らないが、素敵な感性を持ったひとなのだろう。 時々聞こえてくる懐かしい鼻歌から、女性であることは知っている、しかしそれ以外はほとんどわからない。 そんな女性に恋い焦がれるとは、全く我ながら可笑しな話である。 カラン 廊下に響く独特の音。 お隣の人が履いている下駄の音だ。 ちらりと後ろからしか見たことがないが、常に浴衣に下駄というなんとも珍しい格好の青年がお隣さんだ。 心地よい音がまたする。夕飯の買い出しかなにかだろうか。私の仕事の都合上、彼と会うことは全くないが、一、二度と見た後ろ姿。 あの後ろ姿に恋をしただなんて、仕事仲間に言ったら笑われるだろうか。 恋愛というものはおかしなもので、タイミングさえ合えば転がっていく。 けれども今は、その過程を楽しむ時期なのでしょう。会ったことも話したこともないその人を恋しく思うだなんてのは少しばかり不思議ではありますが。 近々くる花火大会、それに仲良く二人で行けるかは、まだ誰も知る由もありません。
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