ガラスの向こう。揺蕩う恋心と、滲む人魚。

2/15
前へ
/15ページ
次へ
 竜宮城の乙姫の正体は、きっと人魚なのだと思う。  なぜなら、目の前の彼女は夕陽を映した海面のように赤い鱗を煌めかせ、確かに魚達と舞い踊っていたのだから。 青白い照明(オーシャンブルー)に照らし出された大水槽の中を──  無彩色のエイたちと空を飛ぶように。  銀色に光るイワシたちと群れるように。  極彩色の熱帯魚たちと戯れるように。  ガラスの向こうに青く揺らめく竜宮城。  そんなあり得ない光景に特別な反応を示さない人々の中、僕だけが開いた口の塞がらないままに彼女の姿を追っていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加