0人が本棚に入れています
本棚に追加
──────「こっちに来るんだ、急げ!!」
その彼の声は、少し高めであどけなく、でも、何かを秘めている様な声でした。私は、考えるより先に彼を追いかけていました。
森をでると彼は、わたしの知らない道にたくさん進んでいきました。通ったことの無いような裏路地をとおり、時には屋根の上も進んでいきました。歩いてやっと着いた先には、小さな廃屋がポツンと立っていました。
彼は、中に入りました。なので、わたしも入ります。
家の中は、一応綺麗にしているようで、壊れそうではありましたが、汚そうではありませんでした。
彼は、キッチンであろう部屋に進んで、コーヒーを淹れてくれたようでした。
そのコーヒーは飲んでみると正直麦茶で、野原の味がするようでした。別に嫌いではありませんでしたが、これなあに?と訊くと、彼は、「タンポポコーヒー。」と答えました。
嫌いだった?と訊かれたので、「嫌いじゃないよ」と答えると、彼は、柔らかい微笑みをうかべて、そうか。と答えました。
少し休むと、彼は、「自己紹介まだだったね」と言い、
「おれは、レン。レンってよんでくれ。」と自己紹介してくれたので、私も、
「わたしは柏田千夏。」と、応えました。本当は、名前なんて持ってません。昔ついてた名前なんてもう覚えていません。
「……それで、何で追いかけられてたんだ、お前は?」と、訊かれたのですが、答えたくないので、黙っていると、
「まあ、いいや。」とあきらめてくれました。
「ところで、お前、ナイフ持ってたよね。貸して」と言うと、私のポケットのナイフを抜き取ると同時に、窓の外へ投げてしまいました。
「え、なにするの?私、あのナイフがないとわたし───」
「だって、あのナイフでおまえ、死のうとしてただろ。
俺の前でまた人が死ぬなんてもういやだ。ましてや自殺なんてされた らたまったもんじゃない。だから、ナイフは捨てる。
…………今日はもうおそい、少し寝て休め。」
私は、彼の「また」という言葉が気になりましたが、もう寝ることにしました。ソファで横たわると、毛布が、投げ込まれました。いつぶりかなと思いながら、わたしは、すやすやと、───────。
最初のコメントを投稿しよう!