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「はぁ、はぁ、はぁっ……」
わかんない、わかんない、わかんないよ。
先輩と別れてから、倒れている大上さんのことも放って、わたしは走り出していた。だって、もうわけがわからない。
なんで、こんなに気持ちがもやもやしてるの?
確かにわたしは、芳沢くんのことも好きだ。それは、大上さんにも言ってしまったことだし、先輩もきっと聞いてしまっているし、何よりわたし自身がもうその気持ちからは逃げられない。
口に出したせいで、はっきり自覚してしまった。
わたしは、芳沢くんのことが好きだ。
でも、先輩の存在ももっと深い奥のところというか、心よりもっと大事なところで好きで求めている――そうも思っていた。
そのはずなのに、待っていたはずなのに。
『もう1回、やり直そう?』
『今度は俺、もっと冬佳の気持ちとか考えるようにできると思うからさ』
たぶん、今度は本気で言ってくれている。
そう確信しているのに、どうしても心の曇りが晴れない。それどころか、そんな先輩の言葉に胸を掻き毟られてしまうような気さえした。
…………、あれ。
そういえば、さっき変なことを言ってなかった?
『浮気じゃなくて本気の相手になれるように決着つけてこい――みたいな内容だと思うよ?』
大上さんがそうやって言うからには、たぶん本当にそういうことだったんだと思う。先輩は、わたしたちのところに来る前に芳沢くんに会っている。
ふと、大上さんに詰め寄っていた先輩の様子が気になった。お互い好きでいられた――そう思えていた時期には1度も見たことがなかった、鬼気迫る表情。
芳沢くんに何かあったんじゃ……!?
不安でたまらなくなって、慌ててバッグからスマホを取り出す。慌て過ぎて、途中で何回も落としそうになったけど、どうにか持つことができた。
芳沢くんの家を目指して走る。今日がバイトの日でよかった……! 覚束無い手で、何度も押し間違えながら、ようやく芳沢くんを呼び出せそうになったとき。
「わっ、」
「いたっ、あ、すみません! 急いでて……!」
「あぁ、いえ僕も全然気ぃ抜いちゃってて……、あれ?」
「あ、」
ぶつかってしまった相手は、どこかで見覚えのある人で。
「君……、絢音ちゃんの友達の?」
その言葉で、どこで会った人かはっきりわかった。
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