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「雨宮さん! よかった……っ」
「あれ、ここは……?」
目が覚めて最初に見えたのは、白い天井。まだ少しぼやけている視界の中には、涙声でわたしのことを見つめている人の姿があった。
誰……?
そう訊くまでもないことはなんとなくわかったけど、ぼやけた視界では彼の姿をちゃんと見ることができなくて不安になってしまう。
「おれは、ここにいますよ」
伸ばした手が覚束なくても、芳沢くんがちゃんと握ってくれる。その手の温もりに、温もりを通して伝わってくる優しさに、思わず声が漏れてしまう。
「へへへ……」
「ん、雨宮さん?」
「ううん、なんでもないよ」
いろんなことがあった。
心はさんざん傷付けられて、痛くて、どんどん思い描いている“わたし”から離れていくわたしが怖くて、汚ならしく思えて、苦しかった。
それでも、そんなわたしの傍にいてくれる人がいる。
そのことが、今のわたしにはとても温かくて、心地いい。
「あぁ、目が覚めたんですね、よかった。えぇ、これからのことについてお話して大丈夫ですか?」
にこやかに、そしてちょっとだけ気まずそうにやって来た看護師さんの話によると、わたしは案の定、車に撥ねられてしまっていたらしい。幸いその先の信号が赤だったこともあって車の進みはゆっくりみたいで、車に当たった傷そのものは大したことなかったらしい。
けれど、頭をかなり強く打ってしまっていたらしく、様子を見るために1、2日くらい入院してほしいと言われた。
「もし気分が悪くなったり頭痛がひどかったりしたら、遠慮なく呼んでくださいね」
そう言い残してステーションに戻っていった看護師さんに続くように、芳沢くんもバイトに向かっていった。といっても、行きたがらない彼をわたしが押し出したようなものだけど。
「ふふ……」
どうしてか、笑いが漏れてしまう。
大変な状況になっていることはわかってるし、不自由は感じるし、心なしか頭もちょっとだけ痛いのに、芳沢くんがわたしを見てくれていることが、なんだか嬉しくなってしまう。
こんな呑気な性格だったかな?
そう思っていたときだった。
「冬佳! 目が覚めたって……!?」
息を切らして病室に入ってきたのは、川浪先輩だった。
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