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「先生!それなら私が!」 「僕が!」 「何でこいつなの?嫌がってんじゃん!」 俺が困惑していると、転校生を取り囲む生徒たちが我先にと手を挙げて口々に叫んだ。 まぁそうなるよな。 転校生に少しでもお近づきになりたいらしい生徒たちは必死の形相で教師に食い下がる。もう他クラスどころか他学年も混ざってるし十分交流になってるんじゃあ…。 もうその人たちで案内すりゃいいじゃん。俺いらないじゃん…。 そんな周りの喧騒をまるで雑音のように無視して、白雪姫みたいな転校生がすっと俺に近づいてきた。 彼が動いた瞬間ふわりと香る、風。 雨上がりの土の匂い、…みたいな。 「よろしく」 俺に近づく美しい仕草に見惚れていると、目の前にすらっとした真っ白い手が差し出された。真っ黒い目は何も語らず、ただじいっと困惑したままの俺を見ている。 しばしの沈黙。揺らぐことのない、真っ黒な視線。どうやら俺に選択肢は無いらしい。 半ば諦めて手を握り返すと、転校生の背後で自分の出番を今か今かと待ち構えていた生徒たちが「えー!」「抜け駆けだ!」なんて思い思いに罵声を浴びせてきた。あぁもう面倒くさい! ひとしきり好きなように喚いた後「行こ行こ」「今日はしょうがないか」「ほんと何なんだあいつ」なんて零しながらざわざわと散っていく。お前らが何なんだよ、もう。 「あー、じゃあ、行こっか。えと、」 「…しゅり」 「へ?」 「黒川柊凛。僕の名前」 「あ、ああ!俺は常盤陽多。よろしく」 名前も黒いのか。何か取ってつけたみたいな苗字だな…なんて思ったのは内緒だ。いや、全国の黒川さんのことを悪く言いたい訳じゃなくて、彼の見た目にあまりにもぴったりだという意味で。 俺が自己紹介すると転校生はふっと目尻を下げて微笑んだ。窓から差し込む僅かな光を反射して、黒髪がさらりと揺れる。 …へぇ、そんな風に笑うのか。遠目から見る彼はいつも色の無い表情をしていたから、少し意外で思わずどきっとしてしまった。 その日から、転校生とはクラスも違うのに事あるごとに何故か俺が指名され、気づけば俺は彼に校内の色んな事を教える世話係みたいになっていた。
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