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俺と転校生、黒川柊凛(しゅり)が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。 一見無愛想に見えた彼は話してみると案外よく笑い、思っていたより気さくで話しやすい。 俺が話すときは優しく受け止めるように聞いてくれるし、話の要点もすぐに理解する。自分が話すときも俺の反応に合わせ、ゆっくり分かり易いように伝えてくれる。 真面目かと思ったら冗談も言うし、くだらないことだって共有して笑い合えた。 そんな彼と一緒にいることはとても心地よかったし、何より初めて見た時から俺を捕らえて離さないその黒い視線が、俺をじっと見つめてくるその瞳が、不思議なことに今ではとても落ち着くのだった。 真っ黒なのに、不安になるような暗さじゃない。静かに優しく包み込んでくれる夜みたいな、そんな深い色だ。 その瞳を覗くたび、俺は何故だか懐かしい気分になるのだった。 だけど何故だろう。その真っ暗闇の瞳は時折ずっと遠くを見つめては、ひどく寂しそうな色を見せるのだ。 俺の気のせいかもしれないし、思い過ごしかもしれない。 しかしどうしても気になって、一度彼に聞いてみた。「何かあったの」と。 そうしたら彼は少し目を丸くして「何で?」とあっけらかんとして聞き返してくるのだ。 やはり気のせいなのかな。しかしもし気のせいじゃなかったとして、俺が踏み込んでいい問題ではないのかもしれない。 柊凛とはたくさん話をしたけれど、ここに転校してくる以前何処にいて、何をしていたのかなんて全く聞いていなかった。 もちろん興味が無かったわけじゃないが、あまり踏み込んではいけないような気がしていたのだ。 柊凛は自分のことはあまり話さない。聞いたことには答えてくれるが、必要以上に自己開示をしない。 それは初めから薄々分かっていたことではあるのだが、彼と仲良くなるにつれ傲慢になっていった俺はその距離が少し寂しいと感じた。
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