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優しい彼はしつこく聞けばもしかしたら少しは話してくれるかもしれない。 だけどもし、聞かれたくないことだったら。俺が無遠慮に聞くことで彼に何かしら痛みを伴う話だとしたら…。そう思うと、益々触れるのが怖くなった。 それならば、待とう。聞いて欲しいと思ってくれたら、きっと彼は話してくれる。 聞いて欲しいと思ってくれたなら、それだけ彼に信頼されたということだ。 そんな関係になれる自信は今のところ無かったけれど、それでも俺は彼のことをもっと知りたい。そう思う程、俺の中で確実に柊凛の存在は大きくなっていた。 「ただいまぁ」 家に帰ると、チリンチリンと軽やかに俺を出迎える可愛い弟。灰色の毛並みは今日も艶々して柔らかく、触り心地が良い。その背中を緩く撫でながら、俺は彼の微笑んだ顔を思い出していた。 あの柔らかな笑顔を見るだけで心の真ん中がほわっと暖かくなるような、不思議な感じがする。なのに同時に、すごく寂しいような気もした。 彼が時折真っ黒い瞳に滲ませる寂しさと関係があるのかは分からない。だけど多分、俺のこの感じも寂しいって言葉が合う気がする。
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