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「そう?ちょっと熱いみたいだけど」
さっきより心配そうに眉を寄せた彼が呟く。
「まあ外も暑いから。熱とかじゃないし、体調も大丈夫だよ。それより、手…」
俺、汗かいてるんだよなぁ…。ベタベタして、気持ち悪いんじゃないだろうか。彼の綺麗な手を俺の汚い汗で汚してしまうのが申し訳なくて、早く離してくれとお願いした。
けれど彼はすぐには聞き入れてくれなくて、長い睫毛を伏せて一瞬渋る。そもそも、熱を測るのにそんなに長時間触っている必要もないだろうに。俺のばあちゃんは誇張抜きにしても一秒くらいで判別してたぞ。あれはあれでどうかと思うけど。
「大丈夫なら、いいんだけど…」
渋々、といった感じで漸く彼は手を離してくれた。彼の手は冷たかったはずなのに、何故か触れられていたところが熱い。やっぱり熱でも出てきちゃったのかな。看病してくれる人がいないのでそれは困るんだが。
ふと正面に顔を向けると、柊凛は真剣な面持ちで俺に触れていた右手を凝視していた。真っ白な手の平の表面は水分で艶めいていて、恥ずかしさで余計に顔が熱くなる。
「うわぁぁごめん!汗!汗ついちゃったよな!早く手、洗って来いよ」
右手を見たまま何やら考え込んで動かない真っ黒で真っ白な彼。やはり相当気持ち悪かったのだろうか。これは偏見だけど、柊凛って潔癖症っぽいところがありそうなんだよな。必要以上に人に近寄りたがらない、というか…。
俺に対してだけはちょっとパーソナルスペース狭めな気がしていたから油断していたが、やっぱ汗は嫌だったよな。俺でも嫌だもん。
自分からしてきたこととは言え、何だかすごく申し訳ない。せめてウエットティッシュとか持ってれば良かったんだけど…。
ちゅっ。
…え。俺が何かウエットティッシュの代わりになる物は無いかと鞄をまさぐっていると、頭上から可愛らしいリップ音が聞こえた。
何事かと顔を上げてみると、その光景に一瞬思考が停止した。
彼が、舐めている。汗びっしょりの俺の額に触れた真っ白な手の平を、ぺろぺろと舐めていたのだ。
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